■プロローグ

風が吹いていた。
対峙する影は2つ。しかし陽と完全に隔絶されたこの場では、その影も朧に揺れようというものだった。
「この場所に私とお前が立っているというのも、なにかの運命かも知れないな」
ひとつ、影がつぶやく。相手の顔は見えない。
「私の歩みを止めるのは、お前だと思っていたよ」
その声を発する者の瞳にも、相対するものの姿は映っていなかった。
「私の左目は、いかなる小さな穢れでも逃すことはない。そしてこの4つ目の弾丸は、いかなる大きな穢れをも撃つだろう」
知っているのだろう?そう問うかのように男はつぶやく。色の異なる双眸の、その左目には、確かに自然ならざる光が宿が宿っていた。
「母を殺した人間を許すことは出来ない」
 その声はわずかに揺れる。
「どうしても押し通すというのか」
「……もう止められないんだ!」
 影は構えた。手には腕よりも長い銃身。そのガンベルトの4番目には、本来そこに
入っているべき弾丸の形は見えない。
 影は構えた。身体から噴出す力に、外套が激しくはためく。
「穢れを得たものはこうまでも醜くなるのか」
 撃鉄がカチリと上がる。
そして――。
それを目にしていた者は、こうつぶやくことしか出来なかった。

『これ、ソードワールドですよね?』

---------------------------------------------------------------------------------------------------------

 2008年5月某日、北本の某所。
 「リプレイを録る」というお題目の下、その日のセッションは始まりました。
 結成当初こそコンベンションの冊子にリプレイを掲載していたドミニオンでしたが、1998年11月を最後に新作の発表はなし。
 今回のセッションがリプレイという形になれば、実に10年近くぶりの新作発表
ということになります。
 システムは『ソード・ワールド2.0』。前回のリプレイが、ソードワールドRPG完全版が
出たころに収録されたことを考えると、妙な因縁を感じますね。
しかし今回のキャンペーン、なかなかもって危険な臭いが、
始まる前からしていたわけで……。

≪ハロー地雷原グッバイ健全≫

GM:では、キャラクター紹介からいきましょうか。

PL(じ):じゃあPC1から(ちらり)。

PL(の):俺なんすか!(PC1ってFEARゲーじゃあるまいし……?)
えっと、名前は名前はラットにしました(以下、PL(の)→ラット)。人間の男。
親は冒険者で、経歴表を振った結果、田舎出身で予知夢を見たことがあるんだそうです。親が冒険者ってことで、家にあんまいないわけですよ。 それで、おじいちゃんに育てられてたんですが、ある日予知夢を見まして。『どこそこに行けばなになに会える』みたいな感じで、旅に出ることにしました。

PL(じ):俺それ知ってるんだけどさ、多分おじいちゃんから秘密の呪文とか教えてもらったでしょ。

一同爆笑

ラット:そ、そうなのか……(笑)。

GM:OK、その呪文って言うのは「神様への道を開く呪文だ」っておじいちゃんに聞かされている。「人には教えちゃいけないよ」って。

ラット:マジっすか! ええと……まあそんな感じでこの街に来ました。メイン技能はフェンサー3。田舎育ちの世間知らずですが、セージ1を持ってます。

PL(じ):実践を伴わない知識なんだね。

ラット:回避7あるので、前線の囮にはなれるかなー、と。あとは15歳ってくらいですかね。

PL(りゅ):なに、同い年か。

PL(じ):きた! しかもラットが田舎者に対し、そっちは都会派?

PL(りゅ):ですね。「この田舎もんが」って(笑)。

わけわからんうちに勝手に設定が生まれてしまったラット。さらに早くも対照的な
ライバル候補登場? まあ周囲に翻弄される少年ということで、ある意味
PC1(=主人公系)枠としては正しいのかも。

ちなみにPL(の)さんは、参加者の中で唯一ドミニオンスタッフ外のメンバーです(※2008年10月現在)。 実は今回のリプレイ、彼には伏せられている事実がいろいろとあったりしますが、それはおいおい。

PL(じ):次、PC2どうぞ。

PL(りゅ):え? じゃあ、ジークです(以下PL(りゅ)→ジーク)。
人間の傭兵生まれ、15歳。 ファイター2のプリースト1、信仰は太陽神ティダンです。
経歴表は……。

ランダムに決めた結果は、
『大恋愛をした』『大失敗をした』『大喧嘩をしたことがある』。

ジーク:こんなんばっか!

GM:大恋愛して喧嘩して失敗だったのか(笑)。

PL(じ):恋愛自体が失敗だったんだよ(笑)。

ジーク:15歳で大恋愛とか、なんですかこの源氏物語みたいなの。

PL(じ):身分違いの恋をして、僧籍に入ったんだね(笑)。

ジーク:うーん(設定どうしよう)……きっと、義理のお母さんが好きになっちゃったんですよ。

一同:おおおおおおおおおお。

ジーク:そこから逃げるために戦ってます。「俺のせいじゃない、神様が悪いんだ!」ってみんな神様のせいにして(笑)。

ジェセル:すばらしい(笑)。

ラット:神様悪いやつだなー(笑)。

GM:それはなんだ、義母の名前を聞いておこうか。

ジーク:名前!?

一同爆笑

PL(じ):これ、ソードワールドだよね?(笑)

ジーク:(しばし悩んで)じゃあ、シルヴィアで。

GM:了解。いまNPCの名前を1人書き換えたから(笑)。

ジーク:見た目の特徴は金髪に白い肌で。

PL(じ):ってことは、ラットは浅黒い系だな。

ラット:ですね(笑)。

ジーク:お父さんとは仲が悪い感じですね。大喧嘩して、ほとんど口も聞かない。

ジェセル:そりゃあもう、エディプスコンプレックスの真っ最中だもん(笑)。

「PC1のライバル」というこれまたPC2らしい立ち位置のジーク。
PL(りゅ)さんは今回のリプレイ企画が持ち上がった当初から「腐女子キャラを造る!」と息巻いていましたが、最終的に出来上がった設定は……どう見てもエロゲです。 本当にありがとうございました。

PL(じ):さて、健全なソードワールドはここまで。

一同爆笑

PL(じ):じゃあPC3どうぞ。

ジェセル:俺か。俺のキャラはジェセル(以下、PL(テ)→ジェセル)、29歳。ナイトメアの男。

ラット:ナイトメアって、元種族が○○生まれとかありますよね?

ジェセル:うん。それを俺は強引に、ナイトメアとナイトメアの間に生まれたという……。

一同爆笑

ラット:すげえ(笑)。

PL(じ):完璧だよ(笑)。

ジェセル:まあ、生まれによって弱点を決めないといけないから、両親とも人間生まれのナイトメアにして、 俺も人間生まれと同じ弱点ってことで(笑)。技能はフェンサー1のスカウト1の、コンジャラー2。 魔法使いの割には知力低いんだけど、戦闘特技で《魔法拡大/数》を取ったので、補助魔法をみんなにかける予定。

ラット:なるほど。

ジェセル:あと、コンジャラーなんでフランス人形みたいなドールをもってるんだが……俺のキャラはそれを「お母さん」って呼びます。

一同爆笑

ジェセル:以上不健全担当でした(笑)。

いわゆる邪気眼キャラ(ロウティーンが好きそうな、斜に構えたダークヒーロー)の典型パターンといったところ。 本人はかっこいいと思っていても、傍から見るとただの痛い妄想キャラというやつですね。
2.0から追加された「ナイトメア」という種族自体の設定が、 「生まれながらに穢れを抱えた突然変異種族」というものなので、邪気眼キャラとの相性がよいことよいこと(笑)。
確信犯で作っているとはいえ、かなりハードル上げてるなぁ……。

PL(じ):ではワタクシがPC4。名前はクラウス(以下PL(じ)→クラウス)。 ルーンフォークの男で30歳、マギテック2のシューター1。マギテックなので、マギスフィアという
魔法の発動体を持っていなきゃいけないのですが、それが左の瞳に埋め込まれて
います。なので、私の左目は、どんな穢れも見逃すことはありません(笑)。

一同:(笑)

クラウス:始まりの剣ってやつが、伝説でも「第三の剣」までしかあまり触れられないのに、 私は「第四の剣」を探しています(笑)。それで400年前に滅んだ魔動機文明の借りをかえしたいな、と。経歴振ったら血縁と死別してるらしいんだけど、 ルーンフォークって、血縁いるのかな? あと剣のほかに、自分の主となるべき存在も探しています。

これまた2.0から追加された種族であるルーンフォークは、魔動機文明によって生まれたアンドロイド種族。 勝手に片目を入れ替えているあたりがなかなか香ばしい。やはりオッドアイは基本なのか? ちなみに公式設定にも第四の剣の存在はあるのですが、 どうやらこれ、2.0の世界ではマニアックな異説(=トンデモ論扱い)らしい。
ということは、勝手に設定していいってことですよねー。

ちなみに以上4人が今回のキャンペーンの主要キャラ。彼らのほかに、出入り自由なゲストキャラが冒険には加わる予定となっております。今回のゲストキャラは1名。

PL(げ):じゃあ今回のにぎやかし担当。 デルタ・ソル(以下PL(げ)→デルタ)。ドワーフ男の28歳で、生まれはグラップラー。名前はリングネームみたいなもんだ。 技能はグラップラー2、レンジャー1。外見は顔に仮面、手にリストバンド、足はブーツで、上着はポンチョって感じ。

クラウス:こいつは変態だ!(笑)

デルタ:まあ、にぎやかし担当なので目的とかは特にないけど……ベルトが欲しいです。

クラウス:ベルトかい(笑)。

ここで卓上に電流走る――。

GM:さて、このパーティには【キュア・ウーンズ】(=一番オーソドックスな回復魔法)の使い手がいないわけだが。

一同爆笑

クラウス:なにそれ? おいしいの?

デルタ:一応、レンジャーなので薬草ならたくさん買っておいたが。

GM:ほかの回復魔法としてはマギテックの【ヒーリング・バレット】があるのかな。

クラウス:なんですか? 私の弾丸は味方には飛んでいきませんがなにか(笑)。

ジーク:まじっすか。一応プリースト技能はレベル1持ってるんですけど、【キュア・ウーンズ】使えるのはレベル2からなんですよねー。 だから、今回は無茶しないでください。

クラウス:バカ、無茶しないソードワールドなんて、ソードワールドじゃねぇ!

一同爆笑

GM:まあ、実際レンジャーの薬草とかがどこまで回復手段として有効か試すぶんにはちょうどいいのかな。

「ソードワールド」は散々プレイしてきたとはいえ、2.0のプレイ経験があるのはラットのみ(それでも1回)。 GMも実際に2.0のセッションをするのが初めてということもあり、参加者全員が手探り状態だったりします。 しかも濃い(というか痛い)キャラ、バランス悪いパーティ編成、システム初心者ぞろいという状況。 今回のリプレイ用ショート
キャンペーン、果たしてどんなことになるのやら……。

≪そして冒頭へ≫

GM:では始めますか。まずエンディングから。

ラット:!?

クラウス:なんかやりますか(ジェセルの方を見る)。

ジェセル:俺から?(笑)

クラウス:じゃあ私から。どこからともなく風が吹いているわけだ。んで、なぜか知らないけど私は誰かの前に立つわけですわ。 「この場所に、私とお前が立っているというのも、なにかの運命かも知れないな」

一同爆笑

ジェセル:そしたら俺は「私の歩みを止めるのは、お前だと思っていたよ」って(笑)。

GM:ちなみに、お互いのシーンでは、しゃべってる方の顔は見えてるんだけど、もう片方の顔は影のままということで。

ラット:(ますます混乱)

いきなりの展開にラットのプレイヤーはすっかり置いてけぼりに。しかし誰もフォロー
しない。まあ、ある意味思惑通りなのですが、それにしてもひでぇ(笑)。

クラウス:「私の左目は、いかなる小さな穢れでも逃すことはない。そしてこの4つ目の弾丸は、いかなる大きな穢れをも撃つだろう」

GM:あ、ほかの人も勝手に混ざっていいよ?

ジーク:いや、いいです(笑)。

ジェセル:そしたら、「母を殺した人間を許すことは出来ない」と。

クラウス:「どうしても押し通すというのか」と言って、私はゆっくりと大きな長いライフルに、弾丸を1個込めるわけだよ。ガシャリ(笑)。

ジェセル:そしたらこっちはマントとかばさあと広げてさ、「うおおおお」とか言いつつオーラを出してだな(笑)。 そして例の異形化の形態になると、地面とかがバリバリバリっとはがれていって……。

クラウス:どんどん穢れが広がっていくんだね(笑)。

ジェセル:「……もう止められないんだ!」とか。

一同爆笑

ラット:なんて痛い戦闘(笑)。

クラウス:そこで「穢れを得たものはこうまでも醜くなるのか」とかいいつつ、劇鉄を上げて狙いを定めましょう。

GM:まあそんなエンディングにしときますか。OK、それじゃあ、終わったところから始めましょう。

ジェセル:このエンディングに向けて、みんなでがんばろう。

ジーク:これ難しいなぁ(笑)。

ラット:というかこれ、ソードワールドですよね?

GM:ソードワールドですよ?(笑)

クラウス:だからこんなエンディングなのに、話は例によって冒険者の店から始まります。

一同爆笑

今回のコンセプトの1つは「ソードワールドばかりやってたあのころを思い出して遊ぼうぜ!」というもの。 今ではずいぶん年をくった我々も、前作のソードワールドに触れていたころは思春期まっさかり。 作るキャラクターも思春期臭たっぷりだったし、今回のように無意味に時系列をいじった形式のキャンペーンをしようとしたものです。
……まあたいていは失敗するわけですが。
ちなみにスタッフ外参加者であるラットは、そのことを知らされておらず……。

ジェセル:というか、どこまで知らされてるの?

ジーク:えっと、連絡では「この日にソードワールド2.0やるから来てください」ってだけ伝えました(笑)。

ジェセル:そこまでかい!

ジーク:というか、リプレイ録ることも教えてません(笑)。

GM:しかもキャンペーンだしねぇ。

ラット:え、キャンペーンなんですか?

一同(除ラット)(爆笑)

以上、紛れもない実話。正直すまんかった(だが反省はしない)。

そんなわけでドミニオン的ソードワールド2.0リプレイ、はじまりはじまり。

第一話の1ページ目へ

inserted by FC2 system